初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「連絡先を交換しよう」
「え?」
急な話に私は驚く。
常務はポケットからスマートフォンを取り出し、
「君の電話番号は?」
「あの」
戸惑っていると再度、電話番号を教えてくれと言われて思わず圧力に負けた。
スマートフォンの番号を伝えれば常務はすぐに私に電話をかけ、私が慌ててスマートフォンを鞄から出すと、私のスマホに番号が出てるのを確認した常務は電話を切った。
「それが私の電話番号だ。
後でメールアドレスもショートメッセージで送っておくから返信しなさい。
これからは何かあればすぐ連絡するように」
「これ、社用の番号ですか?」
「違う。プライベートのだ。
そもそも社用のは君は総務なのだから把握していると思うのだが」
「総務では社員情報を管理しているだけですので。
必要な場合は使いますが、それはあくまで仕事上のことですから常務の番号自体は存じ上げないです」
「なら私の社用の番号も入れておくように。いいね?」
私はスマートフォンを持ったまま、はい、と戸惑いつつ頷いた。
相当常務を心配させてしまったようで申し訳ないし、子供扱いされているようで情けない。
「お手数おかけして本当に申し訳ないです」
「謝るのはナシだ。
・・・・・・ただ私が後悔したくないだけだから」
ただの一社員をこんなにも気にしてくれえるだなんで。
責任感の強い常務はこういうことですら見過ごせないのだろう。
「ありがとうございます、常務のお気遣い心強いです」
今度は感謝を言うと、常務は少し表情を緩めた。
初めて見る表情に、何か心の中がどくんと音を立てる。
「ではまた明日。
しっかりと戸締まりをするように」
常務はしっかり私に釘を刺した後、アパートの入り口の方へ歩いて行ってしまった。