初恋の糸は誰に繋がっていますか?
家に入り狭い部屋の中で鍵が全てかかっているかを確認し、どこかに誰か潜んでいないか風呂場やトイレを慎重に確認するとホッとした。
未だにコンビニで買った物を冷蔵庫に入れることも無くテーブルの上に置き、スーツのジャケットを放り投げ床に敷いてあるラグに寝っ転がる。
さっきから緊張のしっぱなしだったのと、そもそも残業で疲れていたのでヘトヘトだ。
だが謎の靴音の件は心配から消えていて、常務に迷惑を掛けてしまったことの方が気になっていた。
仕事で話すことはあっても要件のみの簡単な会話が普通、こんな風に送ってもらうことになるだなんて。
そして寝転がっても手放さなかった、もらったお菓子の服を眺める。
初恋の彼は、私が落ち込んでいたりするとよくお菓子をくれていた。
言葉少ない彼なりの優しさだったと、あの頃の私でもわかった。
だからこれは常務なりの優しさだ。
「一件冷たそうなのに、こういう事されちゃうとドキッとしちゃうよ」
そんな常務にはお相手がいる。
二人が並べば誰もが羨む美男美女、文句の付け所のないほどにお似合いのカップルだ。
それに比べて自分ときたら。
未だに引きずっている淡い思い出は今朝真実を知って終わらせるべきなのに、美化された記憶というのは簡単に消せるものでは無い。
お菓子を見つめながら、名前の読み方だけ同じで似ても似つかない二人の『たつき』を思い、私はいい加減お風呂に入らなければと、今日何度目かわからないため息をつきつつ立ち上がった。