初恋の糸は誰に繋がっていますか?

「下村さんとは、その、以前お付き合いしていたことがありまして」
「そう」

常務の返事は素っ気ない。
まさかそこまで素っ気ない返事とは思わず怯みそうになる。

「彼とはもう特に交流も在りませんし、何か情報を漏洩させるようなことなど会社に不利な行為は一切しませんので!」

負けないように私が表情を引き締めて言うと、彼は私を真っ直ぐ見て何故か口元を緩めた。

「君がそんなことをするとは思ってはいない。
そういう事情があるのならやりにくいこともあるだろう。
このプロジェクトに関わるのはやめるようにした方が良いのかも知れない」
「いえ!楽しみにしているので是非関わらせて下さい!」

外されそうになったのが分かり私は慌ててそれを遮れば、彼の目が少し丸くなると軽い笑い声がして私が驚いた。
いつも厳しい態度と表情だが、ふと優しい顔をするからドキリとしてしまう。

「わかった。何かあればすぐに言うように。
君は本当に必要なときに相談しないからな」

きょとんとする私を置いて常務は部屋を出て行った。
必要なときに相談しない、一体どれのことを指すのだろう。
確かに以前元上司を煩わせないようにと一人で抱え込んで、結果ミスを犯したことがある。
ミス自体は大きくはなく、そもそも管理監督する元上司の身勝手な対応に問題があったということで特にお咎めは無かったが、それのことだろうか。

このプロジェクトに雑用係のような立場であろうとも関われた以上、いつも以上に責任を持ってやるつもりだ。
常務の側にいられるという下心は否定しないが、こういう仕事に関われるのは刺激になるのでせっかくのチャンスを逃したくはない。
片付けを再開しながら、そう言えば下村さんと無理矢理約束されたことを思い出した。
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