初恋の糸は誰に繋がっていますか?

だがそれから一ヶ月もしない頃だったろうか、私は同じゼミの先輩女子から呼び出された。
彼と同級生の、女子の私から見ても色っぽい人。

『下村君、私と寝たの、それも一度二度じゃ無い。
最初は彼女が未だにやらせてくれないって愚痴ってた。
別れたいのに言えないのも困ってたな。
あなた、無害そうな顔して酷い女ね』

ショックのあまり何も声を出せなかった。
優しいと思っていた彼が、無理強いしないと言っていた彼が、こんな短期間で他の子とそういう行為をしていたことが。
自分で別れが言えないから彼女に言わせたのだと思っていたけれど、彼はすぐに私に会いに来て謝罪した。

『酔ってその、勢いでやっただけなんだ。
彼女が好きだからじゃ無い、本当に好きなのは理世だけだ!』

必死に訴える彼に、私の心は冷めていた。
一度二度じゃないことが本当なら、酒の勢いは何度あるのだろう。
冷めた、いや諦めきってしまっていた。
彼だけが悪いんじゃ無い。
むしろ自分が彼に甘えていたことで彼を追い込んでしまったのだから仕方が無い事だ。

『我慢をさせてごめんなさい。
浩二さんは彼女と幸せになって。
私が相手じゃ我慢ばかりさせてしまうから』

そう言って私は逃げるように立ち去った。

それからしばらくは彼から電話やメールで会いたい、愛してるなどという連絡が来て、その度にごめんなさいと返していたがその返信もしないようになると連絡は来なくなった。
そして彼がその彼女と交際を始めたと人づてに聞いた。
ちょうど彼らは就職活動もありゼミに来なくなったので、私はしばらく腫れ物扱いされたものの、自業自得だと耐えた。

あれから誰とも交際していない。
結局自分は男性とは付き合えないのだと思うと同時に、これがあの初恋のお兄ちゃんならきっと受け止めてくれるはずと逃避してしまっていた。
そして気がつけば二十五歳。
初恋相手は逮捕され、そこに思い出すのも辛い元カレまで現れて厄払いでも必要なのかなと本気で考えていた。

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