初恋の糸は誰に繋がっていますか?


残業があり気がつけば八時を過ぎている。
もういないだろう思って会社の外に出ると下村さんが立っていて、私を見つけるとホッとしたような顔をした。

「良かった、すっぽかされたとばかり」
「残業してて」
「そっか、お疲れさま。
食事してないよね、どっか食べに行こう。
僕もお腹が減ってたまらないんだ」

七時前から待っていたのだとすれば晩ご飯はまだだろう。
勝手に取り付けられた約束とは言え、待たせてしまった罪悪感から食事に行くのを受け入れた。

会社から近いレストランに入る。
ハンバーグで有名なこのチェーン店は、大学当時二人で何度か来たことがあった。
木目調で統一された店内、座っている場所からも見える大きな厨房。
二人で席に座ると、二人が行った店舗は違うのにあの頃に戻ったような錯覚を覚えた。

「よく行ったよな、この店」

下村さんが屈託無く言うので、同じ事を考えていた私は動揺を気づかれないようにそうだね、と素知らぬ顔で返した。
二人でこの店一押しのハンバーグを頼む。
これも付き合っていたときと同じメニュー。
彼は嬉しそうな顔を隠すこと無く、同じメニューだねと笑った。

「しかしあのプロジェクトで理世に再会するなんて驚いたよ」
「私も」
「そっちは大きな会社だし、うちはまだまだ少人数でやってるところだからね」
「フィグスはどんどん注目浴びているじゃない。
ここ数年担当している商品の売れ行きが良いのは、デザインや広告の打ち方が良かったって評価されてるし」
「嬉しいね、理世がそういう風にウチの会社を知っててくれたの。
大手のTAKAGIとは組んでみたかったし、これだけうちの会社も結果も出してるなら行けるんじゃ無いかなんて思いつつも、コンペはもちろん全力で臨んだよ。
勝ち取った時は会社全体で喜んだくらいで」

このコンペを審査したのは商品開発部と森山常務だ。
最終決定をしたのは常務だと聞いているが、それを明かすわけにはいかない。

< 29 / 158 >

この作品をシェア

pagetop