初恋の糸は誰に繋がっていますか?
彼の熱量に私は先ほどまでの否定の言葉が言えなくなってしまった。
私なら、またあの初恋の彼と会えたならきっと簡単には諦めきれない。
そもそも下村さんが他の女性に走ったのには私にも責任の一端があるわけで。
その負い目は私もずっと消えない部分だ。
これから大切なプロジェクトを進めていくメンバーの一人。
それを個人的な気持ちだけで彼のパフォーマンスや、メンバーでの雰囲気を悪くさせることだけはしたくない。
「ごめんなさい。
私は当分誰かと付き合うつもりは無いの」
「だからまずはそうだな、変な言い方かも知れないけれど友達からでどうだろう。
色々仕事の話とか、プライベートな悩みとか異性だから話せることだってあるはずだ。
今後のプロジェクトを円滑に進めるためにも、お互い良い関係でいたいと僕は思うな」
やはり彼は頭が良い。
結局私に断らせない方向に導いてきた。
彼がこんなに優しく、そして私に好意を向けるのに自分の気持ちが彼に揺らがない理由。
それは森山常務がずっと心の中にあるから。
あの人に軽蔑されたくは無い。
軽い女とも、仕事を軽視する人間とも思われたくは無い。
とりあえずはプロジェクトが終わるまで、雰囲気の悪い状態にしない方が良い、それも何故か選ばれた総務の私としてはなおのこと思ってしまう。
「わかりました。
あくまで仕事を円滑にするための交流というということで。
あと最初に言ったけど、もう名前で呼ぶのは止めて下さい」
「もちろんだよ。
理世と呼ぶのは二人きりの時だけにするようにする。
今の僕の仕事ぶりを見て惚れ直してもらうように、まずは頑張らないとね」
彼は学生の頃のように無邪気な笑顔を見せた。
名前呼びをしないで欲しいと言っているのに、彼自身はそれ以上譲歩する気はないようだ。
これ以上言っても無駄だと思いとりあえず仕事するときに呼ばれなければ良いと思うことにした。
きっとこれで良いのだろう。
彼自身、悪い人では無いのだから。
乾杯したいという彼に私は仕方なく応じ、二人で赤ワインのグラスで再会を乾杯することにした。