初恋の糸は誰に繋がっていますか?
肩にかけた鞄の紐を無意識に強く握りながら早足で歩いていると、鞄からスマートフォンが震えているのが分かり私は急いでスマートフォンを鞄から出す。
そのディスプレイには『森山常務』と出ていて、私はその名前に救われた気持ちになりながらすぐに通話ボタンをタップした。
『遅くに済まない。もしかしてまだ外か?』
私はその声を聞きながら、スマートフォンを当ててない方の耳で靴音がまだ聞こえているのか確認しようにも緊張のせいか音を聞くことが出来ない。
『金沢さん』
「は、はい」
『何が起きてる?』
思わず声が震えた。
それに勘づかれ、常務の声が固くなった。
『今、どこにいる?』
「家の、近くで」
『すぐに大通りに出られるか?』
「多分」
『大通りに出たらすぐにタクシー捕まえて乗りなさい。
そろそろ大通りは見えてきたか?』
私は後ろを振り返ることも出来ず、向こうに見える大通りの明かり目指し急ぎ足で進むと目の前は幹線道路で一気に明るい。
道路に出たことを伝えれば、
『すぐに手を上げなさい。
大げさなくらい手を振って良い。
手は振っているか?
車はかなり通っているだろう?
大丈夫だ、そこは駅に向かうタクシーが多い。
すぐにタクシーは捕まる、安心して良い』
常務の声は落ち着いていて、その低い声が緊張で張りつめていた私の心を冷静にさせていく。
後ろに誰かいるかなんて見たくはない。
スマートフォンを耳に当てながら必死に手を上げ振っていると、運良くすぐにタクシーが停まり、私は急いで乗り込んだ。