初恋の糸は誰に繋がっていますか?

高層階用エレベーターに乗って降りたのは30階。
ふかふかな絨毯が敷き詰められたマンションの廊下は、かなりの間隔でドアがあることから、各家の広さが分かる気がした。

奥の角にあるドアを常務が開けた。

「どうぞ」

広々とした玄関ホールで立っていると中に促された。

「失礼します」
「スリッパとか無くて悪いな」
「いえ、うちだってありません」
「足下は寒くないか?」
「大丈夫です」

そもそも男性の家でスリッパまで揃えている家の方が少ないのでは無いだろうか。
いやこれだけ高級マンションに住む人なら当然なのかも知れない。
きっと女性がいるのなら気づいて用意してある可能性はある。
ということは婚約者はあまりそういうことに口を出さない控えめな人なのだろうと思って何故か落ち込んだ。

私は常務の後に続き廊下を進む。
常務がドアを開けると、カーブになった広いリビングでその大きな窓にはカーテンがかかっていない。
だが高層階にあるせいで遮る物は何も無く、下からの夜景の明かりが夜の空を照らしているようだ。
ぱっと部屋が明るくなり、柔らかな色の壁紙に木目調の家具が目に入る。
ガラスのローテーブルの上には何冊もの本が積んであった。
人が寝ても十分なほどグレーの大きなソファーの背もたれには、スーツのジャケットが投げられたように置いてあった。

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