初恋の糸は誰に繋がっていますか?

「今風呂を入れている。
あと着替えなんだがこれくらいしか用意できなくて悪いな」

常務の手にはTシャツとカジュアルなパンツ。
まさかの着替えを用意されびっくりする。
本気で泊まるように思ってくれていたなんて。

「お気遣いありがとうございます。
泊まるように言って頂けるのはありがたいのですが、ご迷惑かけるのは申し訳ないので落ち着いたら帰ります」
「女性は色々用意しなければ泊まりにくいものだよな」

常務は自分の顎に手を当て考え込むような仕草をした。

「マンションの隣に大きめのコンビニがあるんだ。
流石に服は無いが、下着や化粧品なども揃っている。
そこに後で連れて行こう」
「ですが」
「家に帰れないほど怖い事が、あったんだろう?」

何もかも気付いているかのような鋭い目から逃げるように俯く。
常務がこちらに来て私の横に座り、ソファーが少し沈む。
一気に縮まった距離に私の心音が聞こえてしまいそうだ。

「話してくれないか、何があったのか」
「気のせいかも知れなくて」
「それは聞いてから判断する」

この有無も言わせぬ圧力、会社で何度見聞きしただろう。
常務に静かに詰めていかれれば、どんな凄腕の営業マンでも最後は黙り込んでしまう。
そんな相手に一介の平社員である私が抵抗できるわけも無く、私は観念するとぽつぽつとここしばらく帰り道に起きている事を話した。

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