初恋の糸は誰に繋がっていますか?
話し終えると常務が静かに立ち上がった。
目で追うと彼はキッチンに行き何か作っているようで、数分して私の目の前にマグカップとお菓子の入った箱らしきものが出てきた。
マグカップからは香ばしい香り。
これはほうじ茶だ。
箱を常務が開けてくれ、そのクッキーの包装紙には京都の有名洋菓子店の名前が入っていた。
「ほうじ茶と、そのクッキーは部下から京都出張の土産として貰ったものだ。
抹茶味と言ってただろうか。
嫌いじゃ無いのなら少し食べなさい」
常務が自分のマグカップでお茶を飲んで、私もお礼を言うと受け取ったマグカップに口をつけ少し飲む。
思ったよりも喉が渇いていたようで、ゆっくり飲むとちょうど良い温度のお茶が冷たい身体を温めていくようで、自然と涙が浮かんだ。
「あの日、君が真っ青な顔で改札の前にいた理由がわかった。
むやみに怖がらせるつもりは無いのだが、君が狙われている可能性は高いと思う」
そんな事を指摘されビクッと身体が縮こまる。
「もちろんその近辺で不審者が帰宅途中の女性を無差別に狙っているという可能性もある。
どちらにしろ警察に届けるべき内容だ」
「でも確証は無いんです。
ただの勘違いだったら、その、凄く迷惑を掛けるというか」
もしもただ同じ方向に帰る男性をそうだと勘違いしていたら。
または男性と思い込んでいるだけで女性かも知れない。
そもそもこんな不確かな事で警察に行って良いのだろうか。
そのせいで知らない誰かに迷惑を掛けてしまったら大事になってしまう。