初恋の糸は誰に繋がっていますか?
目の前のローテーブルに、常務がマグカップを置いた。
「君が気遣って動けないのはわかった。
だが一連のことで恐怖を抱いているのは事実だろう?」
私は一拍おいて頷いた。
「家に帰るのが不安ならば、しばらくこの家にいるといい」
「えっ?」
「空き部屋が一つある。
それにここなら会社からも近いし、駅からもすぐだ。
不審者があの駅を使っている女性を無差別に狙っているのなら、これで君はターゲットから外れる。
だが君自身がターゲットだった場合、あの駅で見つからないなら君を探しこの駅で乗り降りすることに気付くだろう。
幸いこのマンションなら駅前、暗い道を通ることも無い。
監視カメラも広範囲にあるし目立つようにつけてある。
君をつけている者も、馬鹿じゃ無ければリスクが高いと行動を止めるはずだ」
「ですが、ここにいると常務に迷惑が」
彼の指摘していることは全て正しいと思う。
だけど何故一介の平社員にここまでしてくれるのだろう。
「自分が後悔をしたくない、ただそれだけだ。
だから君は何も気にしなくて良い」
「後悔?」
常務が自嘲気味に笑う。
「だが急な話で君も困るだろう。
とりあえず今夜はここで過ごして、その後どうするかは明日以降に決めれば良い」
常務はそう言うと、とりあえず買い物に行こうかと言ってくれ、私は何に対する後悔なのか聞くチャンスを逃してしまった。
二人でマンション隣にあるコンビニに行ったが、マンションを出るとき思わず周囲を確認してしまう。
頭の中で車でつけられていたらどうしようという不安があったからだ。
突然私の手を大きな手が包む。
「大丈夫だ」
ぎこちないが安心させようとしてくれる表情、声。
何より手から伝わる体温が恥ずかしいながらもホッとしてしまう。
私はありがとうございますと言ってその手を繋いだ。