初恋の糸は誰に繋がっていますか?

髪をドライヤーで乾かし、買ってきた化粧品セットで顔を整え新しい下着に着替える。
服は常務から借りた半袖Tシャツとジャージ素材のパンツ。
そのパンツは裾が引きずるほど長くて、私は常務の脚の長さを思い苦笑いしながら必死に裾を折る。
Tシャツも大きく、これじゃまるで子供が着ているみたいだ。
すっぴんで出るのはかなり恥ずかしいが致し方ない。
静かにリビングのドアを開ければ常務はダイニングのテーブルに置いたパソコンに向かっていて、そう言えば私に電話してきた理由を聞くのを忘れていたのを思い出した。

「お風呂、先に頂きました、ありがとうございます」
「暖まったか?」
「とても。
シャンプーやドライヤーとかも勝手にお借りしました」
「気にしなくて良い」

顔を一旦上げた常務はまた視線をパソコンに落とす。
この後どうしていれば良いのだろうと立っていると、

「どうした?」
「すみません、仕事の邪魔してしまって」
「構わない。
さっき教えた部屋で寝ていていいが、殺風景で嫌か?
それとも、眠れないのか?」

寝る場所として案内された部屋はどうみても常務のベッドだった。
そこに私が寝るのは躊躇するし、実際はまだ興奮して眠れない。
話を逸らそうと別の話題を切り出した。

「えっと、そう言えば常務から電話を頂いた理由を聞いていませんでした。
何かご用がありましたか?」
「砕けた話し方で良い。
それにいい加減、常務と呼ぶのはやめてくれ」

確かに自分の家の中でそう呼ばれるのは落ち着かないかも知れない。

「では、森山さん、でいかがでいかがでしょうか」
「話し方」
「う、電話の内容が聞きたい、です」

私が悩んでそう答えると、彼は口元を緩めて自分の前の席に座るように言われて私は座る。
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