初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「昔、自分の愚かさに打ちのめされたことがあった」
彼はソファーに座り上半身を前に曲げ、コップを持ったまま前を向いている。
「その後悔を二度としないために、自分なりに力をつけてきたつもりだ。
だがその予兆に気付いて、いや、それすら起こらないようにしなければならない事が大切なんだと今更ながらわかったんだ。
そうしなければ、被害に一度でも遭った人はその傷を抱えて生きなくてはならなくなってしまう」
森山さんの声は、相手を気遣うようでいて森山さん自身がどれだけ傷ついたのかが伝わってきた。
ずっと誰かを守れなかった事がこんなにも傷を負うような事ってどんな事だったのだろう。
「森山さんは昔の出来事で酷く後悔をされているんですね」
「あぁ」
「だけどその相手の方は、きっと森山さんがそこまで悩まれているのを望まないと思いますよ?」
森山さんがコップを置き、覗き込むように私を見た。
その表情は緊張しているような強ばっているように見えた。
「何故、そう思う?」
「それは、森山さんがそこまで想う相手だからです。
そんなに思われるような相手なら、きっとその方だって優しい人のはず。
自分のせいでそんなに傷ついたなんて知ったら、きっとその方が悲しむんじゃないのかなって思ったんです」
彼は目を見開いて私を見ていた。
「そうか・・・・・・」
視線は俯いていく。
その声は納得し切れている感じじゃ無い。
他に何か森山さんの気持ちを軽くする方法は無いのだろうか。