初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「その方に会えないんですか?
直接話をしてみるというのも一つの方法では」
「無理だ」
彼は短く答えた。
「相手が忘れたがっているか、もう忘れているかも知れない事をわざわざ聞くなんて訳にはいかない。
下手をすれば閉じていた傷を開けてしまうか可能性もある。
そもそもこれは私が背負うもので、自分が楽になるために相手を巻き込むのは筋違いだ」
森山さんが後悔している相手を、もしかしたら森山さんは既にどこにいるか知っているのかも知れない。
おそらく相手が自分の行動で何かを思い出すことを恐れているのだとすれば、その人自身に近寄れるはずも無い。
私は会社で森山さんの仕事ぶりを尊敬している。
若くして常務という肩書きを持ち、周囲から嫉妬や嫌みを向けられる中で成果を出すのは骨が折れるはずだ。
口うるさい、厳しいと言われる森山さんを、私も怖い人だと思っていた。
反面、よく社員を見ているのも知っているし、会社の改善に尽力していることは社員も分かっている。
その上、不安で仕方が無い、怖い、そういう事を人に言えずにいた私を、彼は気付いて手を差し伸べてくれた。
今までの私なら、こんな風に男性の部屋に行くなんて考えられない。
だけど何故か、森山さんなら大丈夫だと思える。
この人なら守ってくれる、そういう感覚をとても大きく感じてしまうのだ。
それがどこから来ているのかはわからない。
もしかしてそれは私が勝手に思い込んでいるだけで、そもそも男性に対する恐怖心は思っている以上に減ったのだろうか。