初恋の糸は誰に繋がっていますか?

「すみません!大切なことを忘れていました!
自分の事で一杯一杯で」
「婚約者?何か勘違いをしているようだが」
「やっぱり私、今からでも帰った方が」

立ち上がると、森山さんがいいから落ち着きなさいと静かな声で言われ、はい、とまた椅子に座る。

「さっきから泊まったことを気にしているようだがこちらは何も迷惑では無い。
君は身の危険を感じてあれだけ怯えていたんだ、安全を確保が一番だろう。
そもそも俺がしたくてしたんだ、君が何か心配することじゃない」
「ありがとうございます。
お相手はとてもお優しい方なんですね。
でももしそう言っていても真に受けては駄目ですよ」
「何故?」
「森山さんのそういう優しさだってお付き合いされている方は好きなんだと思います。
だけど好きだからこそ、誰か知らない女性と一緒に一晩居るのは良い気持ちはしないと思います」
「君も、そう思うのか?」
「え?えーと、多分」

何故私に聞くのだろうと驚いたが、あまりそういう会話を婚約者としないのだろうか。
彼は考え込むように顎に手を当てている。
考え込む姿ですら格好いい、などと目を奪われている状況ではない。
婚約者の女性に大変申し訳ないけれど、今回避難させて貰っただけで何か後で問題になりそうなら平謝りしよう。

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