初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「食事を終えたら帰りますね」
「もう少しいれば良いだろう、送っていく」
「でも明るいですし」
森山さんは小さくため息をついた。
「わかった。だが今回のことは警察に届け出るべきだ。
俺が付き添うから」
「いえいえ大丈夫です。
もう少し様子を見てみます。
勘違いならあまりに恥ずかしいですし」
私が必死に断ると彼は私の決意が固いと思ったのか、またため息をついてわかったと答えてくれた。
その後はたわいない話をしながら食事を進めた。
どうしても言葉遣いが堅くなるが、そのたびなんだか森山さんが複雑そうな顔をするのですぐに言い直したりしてそれが楽しい。
あの森山さんとこんなにも特別な時間を過ごせたことは、昨日の恐怖を薄めるほどに、いやむしろ感謝すべきなのでは?と思ってしまう自分が恥ずかしい。
わかっているのだ、ここから早く出たい理由。
彼女のいる人に想いを寄せて何になるというのだろう。
彼は仕事で関わる私を純粋に心配してくれただけなのに、その気遣いは好きという感情を膨らませていく。
今ならまだ十分に役員と平社員という線引きが出来る。
だからこそ早く帰りたかった。