初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「車で送ろう」
森山さんに電車で帰ることを伝えればすぐに却下された。
駅前だから安全と伝えても、彼自身私の家が安全かを確認したいという。
絶対に自分の意見は譲らないという表情に、私はそのご厚意を受け入れることにした。
マンションの地下駐車場に降りれば、広いスペースに並ぶ車はほとんどが外車。
そこからもこのマンションに住む人達のレベルというのがわかって、自分との格差をしんみりと感じていた。
彼の車は黒のセダン。
あのエンブレムはドイツの高級車で有名なメーカー。
車の側面には特別な仕様なのか見たことの無い名前が入っていた。
傷一つ無いほどピカピカな車。
新車と見えるほどまめに手入れをしているのだろう。
「どうぞ」
近くで突っ立ていた私に彼が声をかけた。
開けてくれているのは助手席。
彼女が本来座る席に私などが座っても良いのかと心配になる。
「私、後部座席に座った方が」
「後部座席には荷物があるんだ」
「わかりました」
なるほどとシートに乗り込めば、しっかりとしたシートは非常に座り心地が良い。
助手席のドアを森山さんが閉めてくれると、重いドアの閉まる音。
流石はドイツ車、車体の作りが違うと実感する。
シートベルトをすると、森山さんが運転席に乗り込んだ。
「シートの左側に操作ボタンがあるから自分に合うように調節して」
そう言ってくれたものの、やはりこれを動かすのは躊躇する。
だって彼女が乗ればいつもと違う位置だと気付くはず。
私が迷惑を掛けたせいで、森山さんと彼女との間にいらない誤解をさせるのは嫌だ。