初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「何を考えているんだ」
覗き込むような彼に、私は驚いてシートに後頭部をぶつけた。
ぶつかった大きな音に、彼がすっと手を出して私の後頭部を撫でる。
「大丈夫か?」
「すみません」
「で、さっきから様子がおかしい理由を話してくれ。
もしかしてさっきスマホに不審なメールでも来ていたのか?
やはり家に帰るのが怖いんじゃないのか?」
あまりに心配をされ、正直に話すことにした。
おそらくここで誤魔化そうとしても森山さんは逃がしてくれそうにない。
「シートを動かせば、いつもこの席に乗っている方が気づかれるし不愉快に感じられるかも知れないと思ったからです」
私は膝に視線を落としたままそう言った。
それで分かってくれると思ったのだが隣から反応がないので伺うように見ると、彼の眉間に皺が刻まれていて私は次の言葉に迷ってしまう。
「この車の助手席に座ったのは君が初めてだ」
驚いて彼の顔を見ると、やっと私の意図が分かったのか、あぁと森山さんは小さく声を出した。
「君はその席にいつも誰か特定の女性が座っているから、その人が気付くと思ったのか。
だがこの車は買ったばかりで誰も乗せたことがない。
だから安心して良い」
「でも女性というのは誰かが座ったというのは気付くものだと思います。
小柄な女性か一般の男性かでシートの位置なんて変わるんですし」
「君は俺のためを思って心配しているんだよな?」
「もちろんです。
恋人のいる方の家に、緊急事態とはいえ一晩泊まらせて頂いたのも軽率だったと思います。
その上、新車であるならなおのことこの席に最初に座る特権が恋人にはあるのに、それを私が奪ってしまったのは大変申し訳なく思って」
普通の車よりは広いと思うこの車でも、男性と二人でいれば狭く感じる。
それもすぐ側に森山さんがいて、部屋でこれぐらいの距離なんていくらでもあったはずが異様に恥ずかしい。