初恋の糸は誰に繋がっていますか?
ふぅ、と小さな声が聞こえ私はその主がどういう意味で発したものなのかわからない。
上目遣いで横をのぞき見る。
彼は前髪を手で掻き上げると、ぐしゃぐしゃと頭を掻いた。
その見たことも無い様子に目を丸くする。
「そういうことか。
すまない、君はそういう所まで気遣いの出来る人だったな。
俺はそういう事に疎くて、言葉にして貰わないと理解できないんだ。
自分では単なる車の椅子と思うのだが、助手席の場合はそこに座る意味があるという事は確かにそうなのだろう。
君が誰かの関係を気にして気遣ったことはわかった。
だが気にしなくて良い、これは俺の車で乗せる相手を決めるのも俺だ」
「以前も言ったように彼女さんがとても器の大きい人だからと言ってそれに甘えては彼女さんが裏で悲しんでいるかも知れないですよ?」
「面倒だな」
「言わない優しさを面倒だななんて言っちゃいけません!」
あんな素敵な彼女さんに何てことを!と私が憤れば、森山さんが笑いを押し殺している。
見たことのない顔に私が抱いていた謎の憤りは簡単に消えてしまう。
「はは、君に怒られるのは何故か悪くない」
「何ですか、それ」
「君が、俺のために必死なのがわかるからかな」
目を細め、その柔らかな笑顔に私は見惚れてしまった。
「さて行こうか。
シートは君の好きにすると良い。
その席は君のものだ」
なんだか照れるような言葉に私が頷くと、彼は車をスタートさせる。
こんな特別な席に私なんかが座らせてもらえたことを思うと、何だか昨日からの出来事はどんどん非現実的な事として私の中で処理され始めていた。