初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「えっと何のことでしょうか。
私としてはこのプロジェクトを真面目に取り組みたいだけでそれ以上の関係とかは」
「誤解しないで下さいね、私結婚してますので」
「あ、はい」
表情も無く言う彼女は、既に二杯目のサワーを飲み干しかけている。
そんな私はカルピスサワーをまだちびちび飲んでいるというのに。
しかし予想が外れて、余計にそれを聞かれる理由がわからない。
「待ち望んだ運命の出会いであの下村もやっと落ち着くのかと期待したんですが、その様子だとまだ駄目みたいなんですね」
「どういう事ですか?」
私が山本さんに聞くと、
「下村はかなり結婚願望強いみたいで、よくお見合いパーティーとか行ってたんですよ。
だけど誰とも長続きしなくて最終的には運命の相手がいるからそれまで待つしか無いんだとか言い出して。
仕事はきちんとこなすんで良いんですが、周囲は呆れていたんですよ」
「はぁ」
「それで仕事先で運命の相手と再会みたいなこと言い出したので、私はこのプロジェクトが成功するようにいわば監視役みたいな状態になりました」
一気に山本さんが残りを飲み干すと、小島さんが、わーお格好いいーなどと茶々を入れたので私は思わず非難の視線を向けた。
山本さんは自分で呼び出しボタンを押すと、
「まぁ悪い人では無いので考えてあげて下さい。
稼いでいるのでお金には苦労しないと思います、多分」
「ですから私はそういう気持ちは一切無いですので」
困ったように笑って言うと、山本さんの目が鋭くなった。
「あの人、こうと決めたら仕事でもプライベートでも手段は選ばない人ですから。
あまり楽観的にいないほうが良いと思いますよ、好きな人がもしもいるなら、なおさら」
何それ、怖いと小島さんがカラカラと笑う。
向かいの騒がしい下村さん達はこちらの会話を聞いている余裕も無いようで、私はホッとしつつも、山本さんの言葉と目がなんだか気になった。