初恋の糸は誰に繋がっていますか?
結局常務は来ないまま飲み会はお開きに。
二次会に行くか一部の人達は考えているようだが、私は先に帰りますと挨拶をしてその場を離れた。
会社近くの大きな駅はいくつかの路線が乗り入れていて、私は改札を通るとホームに向かおうと歩いていた。
「理世!」
後ろからの声に振り向けば、下村さんが笑顔で走って来た。
さっき例の二人組に捕まって二次会に行くかどうか騒いでいたかと思っていたのに。
「もしかして理世もこっち?」
「はい」
「僕もだよ、山城学園前駅なんだ」
「え、私も」
下村さんの表情が驚きに変わる。
私もまさか同じ駅だと思わず驚いた。
「驚いた。なんで今まで会ったこと無かったのか不思議だ。
家は友達とルームシェアしてるんだよ。
理世の家は駅からどれくらい?」
「徒歩十分くらいかと」
「あまり遠くないだろうけど夜だし送るよ。
それと、二人きりなんだしそんな他人行儀な話し方は切ないな」
ちょうどホームには電車が止まっていて、下村さんは私の手を掴むと車内に足早に入る。
「ごめん、ちょうど急行だったから。
結構混んでるけど大丈夫?」
「大丈夫です」
夜の十時すぎ、急行はそれなりに混んでいるがすし詰めじゃないのは助かった。
ここで下村さんと密着するのは何となく避けたい。
それでもそれなりに身体は触れてしまう。
「知らなかった。
こういう電車は大丈夫なんだね」
彼は少し身体を曲げ私の耳元で話した。
それが何を意味しているかわかって私は顔を背けた。
「ごめん」
彼はばつが悪そうに視線を私から逸らした。
大学時代電車で痴漢に遭い、小さい頃の出来事がフラッシュバックしてしまった。
高校の時よりも拒絶反応は酷くなかったが、下村さんと交際途中、それも事情を話して間もなかったので彼は酷く心配してくれた。
そんな優しい彼に私は幸せだったけれど、それも間もなくしてあの出来事で崩れてしまった。