初恋の糸は誰に繋がっていますか?
既に電車は動き出し、人が多い割に車内は静かだ。
時々駅で人が降りるときに巻き込まれそうなのを下村さんが守ってくれ、その度に礼を言うと彼は不思議と嬉しそうな顔をしていた。
やっと駅を降り、私が一人で帰れるというのを彼は拒否する。
「もう遅いし一人で帰らせられないよ。
それに先日不審者の目撃情報あったでしょ?」
初耳に私は目を見開く。
そんな私に彼は戸惑った顔をした。
「友達から聞いたんだけどさ、時々帰宅途中の女性をつける不審者がいるって。
だから」
「それ、いつの話しですか?!」
思わず彼の腕を掴むと、下村さんは驚いた顔から真剣な表情になった。
「もしかしてそういう事、あったの?」
私は少し間を置いて頷いた。
「そうか。
ならなおのこと僕と一緒が良い。
男と一緒なのに狙うヤツはいないだろうしね。
家はどっち?」
私が指を指すと彼が帰ろうと言って私を促した。
「今後、一緒に帰れるときは帰ろう」
「いや、そんなことしなくても」
「だって怖い思いをしたんでしょ?
それを聞いて心配しない方が無理だよ」
彼の声は真剣だ。
下村さんの言葉を聞きながらも、頭に浮かぶのは森山さんのこと。
やはりこういうのは男性なら心配するし、それが身近な人ならなおのことなのだろう。
そう思うと、何だか彼から特別扱いされていたような気がしていた数々のことが、妙に自意識過剰になっていたのだと思って恥ずかしい。
「どうしたの?大丈夫?」
「うん、ちょっと考え事してしまって」
「やっぱりあんな話を聞けば余計怖いよね、ごめん」
私は首を振る。
まさかそんな話しを聞きながら、他の男性に思いをはせていたなんて言えはしない。