初恋の糸は誰に繋がっていますか?
下村さんは交際していた時期を思い出させるような話しを一切せず、以前話していたように卒業後どういう仕事をしていたのか、突然デザイン関係の仕事に関わるようになったのかを話してくれた。
最初はごく普通に営業マンだったそうだが売れた商品そのものに興味を持ち、デザイン会社に転職したそうだ。
彼自身はデザインをするわけでは無いが営業で培った目線などを生かし、デザインでのアドバイス、そして企業との橋渡しで今の立場を築いたらしい。
その熱意は彼の話す内容から十分に伝わって、彼が努力し今の仕事にやりがいを感じているのかがわかった。
「家はここ」
アパートの前で私がそう言うと、
「何号室?」
「103号室」
「一階?!角部屋じゃ無いよね?」
「角部屋です」
彼は驚いたあと、眉間に皺を寄せた。
「女の子が一階に住むものじゃないよ」
予想通りの声を聞きながら、集合ポストを開けて中身の郵便物を確認する。
特に不審な物は無い。
流石に私個人が狙われているというのは考えすぎだろう。
「大丈夫ですよ、戸締まりはしっかりしてますし。
じゃぁ送って貰ってありがとうございました。
下村さんの家、かなり遠回りさせてしまったのでは?」
「いや割と近くだよ。
こっちはもう少し駅に近いけど」
「そうでしたか。すみませんでした。
家ですが、弁解するなら日当たり良くて広いし安かったんです」
「今度ここの更新あるときに、もっと安全な場所考えた方が良いんじゃ無い?」
「うーん、まぁちょうど契約の更新が近いと言えば近いんですが、流石に」
また更新料を取られるのは仕方が無い。
引っ越しなどの費用を考えれば更新した方が安く済む。
下村さんは腕を組んで目を瞑り、少し考えているようだった。