初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「実はさ、同居しているヤツが近々家を出そうなんだ」
「ではルームシェアを解消ですか?」
「そう。
一緒に居るヤツに結婚前提の相手が出来てね。
僕といるより彼女の仕事場の近い家で新しく同棲したいわけで。
向こうがルームシェアを提案してきて僕が渋々受け入れたから、言い出しにくいのもわかってるからこっちから切り出すよ。
だから」
彼の視線が私を捉える。
「僕とルームシェアってのも良いんじゃ無いかな」
話しているのは下村さんなのに、目の前に浮かんだのは森山さんだった。
下村さんが言っているのに、何か彼を思い出させることがあると森山さんが出てきてしまう。
意識しないようにと思えば思うほど、彼の存在は大きくなる。
不毛な相手を思ってどうするのだろう。
あの初恋の彼がいたのなら、ただ泣きながら途切れ途切れに話す私を、昔のようにたどたどしい手で頭を撫でながら側にいてくれただろうか。
「理世?」
「ごめんなさい、流石にそれは無理です」
下村さんは答えを分かっていたかのように苦笑いを浮かべた。
「突然そんなこと言われればそう思うのも無理ないよ。
でも僕としては心配で。
どちらにしろ引っ越しを考えてもいい状況なら、選択肢の一つに入れておいて。
あと、やはり帰れるときは一緒に帰ろう」
「ありがとうございます、お気持ちだけで充分です。
帰る時間はまちまちなので、それに合わせていたらお互いに疲れてしまいますし。
そもそも仕事を円滑にするための関係ですよね?
でしたらまずはそこを一番に優先した方が良いのではないかと思うのですが」
「理世は強くなったね」
彼は寂しそうに呟いた。
「時間も経ったし社会人だから当然なのかも知れないけれど、やっぱり不安を今みたいに抱えている。
また出会えたんだ、それもご近所。
どうか頼って欲しい、それが身勝手ながら僕にとって贖罪になるんだ」
贖罪。
彼は未だに私とのことを申し訳なく思っていて、それに関して私も負い目がある。
そこを言われると私もきっぱり断れないところは、強くなったなどとは言えないだろう。