初恋の糸は誰に繋がっていますか?

『とにかく何も無いようで良かった』
「心配しすぎですよ。
いや私が心配させたんですよね、すみません」

元はと言えば私が彼を巻き込んでしまって彼の古い傷を呼び起こしてしまった。
それなのに心配しすぎだなんて失礼な発言だったと自己嫌悪する。

『こちらが勝手に心配しているだけだ。
君が何か申し訳ないと思う必要は無い。
それと同居の件だが』
「いやいや、同居は流石に」
『君が心配していることは消えた。
だから前向きに考えてくれないか』

平坦な声に感情は分からない。
だけど、心配が消えたって何だろう。
スマートフォンからサイレンの音が聞こえ、そういえば森山さんは外に居るのだと気付いた。

「森山さん、まだ外なんですか?」
『あぁ、さっき解放されたところだ。
だがこれですっきりした』
「お疲れさまです、森山さんこそ気をつけて帰って下さいね」
『それでだ、うちには空き部屋がある。
どうせなら引っ越してくれば良い』

スマホを持ったまま固まる。
いま、なんて?

『聞こえているか?』
「聞こえていたはずなのですが、なんだかよく」
『簡単に言えば同居しようと言うことだ』
「簡単じゃ無いですよ!婚約者がいるのに駄目でしょう!」
『だから片付けてきた』

片付けてきた?何を?まさか。

「まさか、婚約者と別れたんですか?」
『そもそもが君の勘違いなんだがね。
とにかく君が気にすることは何も無い。
引っ越しするなら早いほうがいい。
良い答えを待っているよ。
ではお休み、戸締まりはしっかりとするように』

「はい、いや、同居?!」

同居ですか?!という言葉を言う前に電話は切られてしまった。
へたりと床に座り込み、何が起きたのか再度考える。
あの森山さんが一緒に住もうと連絡してきた。
今夜来られなかったのは婚約者と別れたからだろうか。
もしかして私が泊まったことがバレて問題になったのだとしたら大変だ。
明日はすぐに森山さんに確認しなければならない。
思わず呟く。

「なんで急に同居の話が二件も舞い込むのよ」

他人の話であれば、モテモテだなんてつっこむだろう。
だが実際自分に起きればそうも言ってはいられない。

正直どちらの側にという話しなら、森山さんだ。
彼から与えられる温かさが、何よりも安心できる。
だが彼には婚約者がいるはずで。
これ以上彼の迷惑になりたくは無い。

そっとデスク横の小さな引き出しから手紙を取り出すと、お守りにしているお兄ちゃんからの手紙をそっと撫でた。

自分は一人で大丈夫。
今までだって乗り越えてきたのだから。

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