初恋の糸は誰に繋がっていますか?

「例の結婚詐欺で捕まった初恋相手なんて完全に忘れて、次の恋に行くチャンスじゃ無い。
まだ、捕まった人はあの初恋の人じゃ無い!とか思って、気持ちが断ち切れないの?」
「そこはもう諦めたというか、大切な思い出になってるよ」

そう?と奈津実は最後のドリアを一口食べて、私を観察している。
あの初恋のタツキ君はあの頃のまま、今は森山達貴という人物に心を奪われているだなんて知られたら大変だ。

「そういや森山常務の事で噂話を耳にしたんだけど」

ランチセットについていたフルーツジュースを飲んでいた奈津実が、ふわっと話し出して私の心臓が大きな音を立てた。
まさか私が泊まったことがバレていたのだろうか、いやそんな言い方からすると私の存在が誤解されて森山常務に何か悪い噂が立ったとかだったらどうしよう。

「どういう噂?」

必死に冷静を装い聞いてみると、奈津実は机に置いていたスマートフォンの時間を見て、あ!と声を出した。

「ATM寄らなきゃ行けないんだった!」
「月末だし混んでるんじゃない?」
「そうだよね!ごめん!先行くわ、ここにお金置いとく!」
「おつりは後で渡すよ。行ってらっしゃい」

奈津実は急いで店を出て行った。
こういうのは時々ある事。
出来るだけATM手数料を取られたくないと考えるなら、昼に行くしか無い。

しかし森山常務の噂って。
流石に本人に聞くわけにはいかない。
後で奈津実にチャットを送ろうと思い、私は残りのジュースをやっと飲み終えて席を立った。

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