初恋の糸は誰に繋がっていますか?



「森山常務、婚約破棄したらしいよ」

翌日、朝一番に奈津実に捕まったと思ったら、驚きの情報を教えられた。

「なんで」
「わかんない。
昨日お偉方が話してるの聞いちゃって。
別れたことが嬉しいのか、常務を揶揄うことばかりでわからなかった。
他の子も知ってたけど、常務が他に付き合ってる女性がいたとかなんとかで婚約者が怒って修羅場になったとか」

まさかそれって。
奈津実に急ぎの用があるからとスマホを持って、廊下の人のいない場所へ移動し電話をかける。

『はい』
「すみません!私が原因なのではないでしょうか?!
私から事情を話して誤解を解いていただきますから、どうか機会を頂けませんか!」
『何の話だ?』
「聞いたんです、常務が婚約者と別れたと。
その理由が他に付き合っている女性がいると婚約者が誤解したからだって」
『待ってくれ、何か誤解があるようだが』
「ですからその誤解をですね」
『とりあえず金沢くん、今から私の部屋に来るように』

電話が切れ呆然とする。
これは大変なことになってしまった。
ふらふらと部署に戻り、所用で席をはず事を伝えると常務の部屋に向かう。
なんとお詫びすれば良いのだろう、いざとなれば会社を辞めなければ。
それだけで許されるものだろうか。
泣きそうな気持ちでドアをノックし、中に入る。

「本当に申し訳ございません!」
「とりあえず座りなさい」

入ってすぐに深く頭を下げる。
しかし森山さんに言われ顔を上げると、応接のソファーに座っていて前をすすめられた。
本来は頭を下げ続けるべきだろうが、とりあえずソファーに座ってから再度謝ろうとした。

「とりあえず私の方から話そう」

謝罪をしようと口を開けようとした私が固まると、森山さんは苦笑いをしている。

「まず大前提の間違いだが、私に婚約者はいない」
「え?」

ぽかんとする私に、常務はソファーの背もたれにもたれため息をついた。

「おそらく婚約者と誤解されたのは、他の会社のご令嬢である彼女のことだろう。
彼女の父親から会って欲しいと頼まれ何度か会った。
向こうの父親は娘との婚約を望んでいたようだが、彼女には既に隠れて交際していた相手がいてね」

予想外の話がでてきた。
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