初恋の糸は誰に繋がっていますか?

「そうか。
君は彼と一緒にいる方が安心するのか?」
「それは・・・・・・」

いえ、森山さんの方が安心しますなどと簡単に口には出来ない。
下村さんはいい人だと思う。
あんな別れ方をして申し訳ないと思っているのはお互い様。
まだそんなに再会してたっていないしと思いつつ、森山さんだってこうやって話すようになったのは最近だ。
二人とも罪悪感を抱えて、過ごしてる時間もまだ短くて。
なのに、私は。

「他に引っ越すためにしばらくうちにいるのでも構わないし、彼の家が良いならそれでいい。
私が願うのは君が安全で安心して過ごせることだ。
それだけはわかってほしい」
「ありがとうございます。
きちんと考えます」
「朝からすまなかったな、時間を取らせて」
「いえ、失礼致しました」

部屋を出るとき、森山さんの表情が心なしか寂しげに見えた。
寂しい表情、それは誰かと重なるような。
思い出せず頭を振る。
廊下を歩きながら、ここまで森山さんに心配してもらえることが申し訳ないのに嬉しい。
だがきっとこれがあの駅にいたのが他の人であっても、森山さんは手を差し伸べたのだろう。
勘違いなどしてはいけない。
口を引き結び、部署へ戻った。

< 82 / 158 >

この作品をシェア

pagetop