初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「怖い思いをしたんだ、泣けるなら泣いて良い。
ここで我慢する必要は無い。
ここなら君に怖いことは起きない、大丈夫」

優しい声はココアのように私の心に伝わっていく。
また涙がボロボロでてきて、森山さんは何も言わずにまた涙を拭ってくれた。

「今夜はリビングで寝るか?身体を考えるとベッドの方が良いとは思うが」

ココアを飲み干し、しばらく隣で黙って座っていた森山さんがそういった。

「お風呂、入ってないので、ここで」
「風呂なんて気にしなくて良い。
それと、明日は会社を休んだ方が良い」
「でも明日はプロジェクトの会議が」
「フィグスとデザインの最終調整が主だ。
総務で明日休むと問題がある仕事があるのか?」

私は首を振った。
そうじゃなくて、会議に必要ないと言われた気がして悲しくなってしまった。
森山さんはあくまで私を気遣っているというのに、こういうことを思う自分が嫌になる。

「言っておくが、メンバーに君が不要だという意味じゃ無いからな?
誰でも急に休むことはある。それと不必要はイコールじゃ無い。
それは俺にだって言えるし、まぁ俺は休むと困ると言われないと立場上難しいという板挟みでもあるんだが。
おそらく今夜はろくに眠れないだろう。
不安なまま仕事に行くよりも、まずは気持ちを安定させる方が先だ。
明るい時間の方が眠れるかも知れないしな」

私の安心を一番に森山さんは考えてくれている。
こんなに考えてもらえて私は何を焦ってしまったのだろう。
焦っても私の立場では限りがある。
それなら少しでも落ち着く方を優先させるのはもっともだと思った。

「ありがとうございます。従います」
「いや、明日仕事に行きたいというのなら止めはしない。
君の意思を無理強いするつもりは無いんだ」
「いいえ、ミスをしてしまったりしたら迷惑をかけますので。
これ以上迷惑を増やすわけには」

森山さんの顔を見られず膝に置いた空になったカップをぼんやりみていたら、それをそっと外されカップは後ろのテーブルに置かれる。
代わりに大きな手が私の手を包み込んだ。
柔らかく包み込もうとするその手の主は私の目の前で跪いている。

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