初恋の糸は誰に繋がっていますか?

リビングに戻り、ソファーに深く座った。
広いリビングは以前と違って段ボールは無くなっていた。
以前荷物を置いていると言っていた部屋は、軽く十畳ほどある洋室に広いウォークインクローゼットもある。
昨夜は部屋を案内してくれた。
広いリビングダイニングに部屋は二つ。
書斎スペースが別にあり、防音になっているそうだ。
家によってはピアノなどを置くらしい。
森山さんの部屋は廊下の一番奥で、シンプルながらも壁には大きな本棚が備え付けてあった。
以前あった大量の段ボールから本を並べたのは大変だったろう。
そして、私の部屋だと言われたのはリビングダイニングと森山さんの部屋の間。
カーテンとシングルにしては大きめのベッドだけ置かれていて、ベッドは新品だと言われた。
私のためにではなく、ここは客間なのかもしれない。
そこを私が使うようにと言ってくれた。

今住んでいる場所とは綺麗さも広さも安全性も何もかも違う天上の世界。
なんだかこの地上とは違う場所で森山さんに守られていることに安心してしまう。
だけれど今後を早めに決めなければならない。
他に引っ越すまでここにいさせてもらえるならありがたいけれど、他にいってまた狙われたりしないだろうか。
悪いことばかり考えてしまい、それを払拭しようととりあえず昨日のキーマカレーをいただくことにした。


昼を過ぎダイニングテーブルにノートパソコンを広げ物件探しをしていた。
同居と達貴さんは言ってくれたけれど、あくまで危険が去るまでの間のはずだ。
ここにずっと置いてもらうわけにはいかない。
今度住むのなら少なくとも今の沿線とは違うところが良いだろう。
いくつかの物件サイトを見ながら賃料というシビアな現実に嘆いていると、テーブルに置いてあったスマホから着信音が聞こえ、画面を見る。
そこには下村さんの名前が出ていて、躊躇したが出ることにした。

「はい」
『体調不良で休みだと森山常務から聞いたんだ。
熱は?』
「いえ、熱とかは無いんです。
ちょっと体調良くなくて休んだだけで」
『そうか、だけど心配だな。
何か買って行くよ。
何が良いかな、理世は甘い物が好きだったよね』
「お気遣いありがとうございます、でも必要ないので」
『気にしないでよ。どうせ同じ駅なんだし』

彼は今もあの家にいると思っている。
とりあえず誤魔化しながら話すことにした。

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