初恋の糸は誰に繋がっていますか?



夕方スマホが鳴ったときはビクリとしたが、相手は森山さんですぐにスマホを取る。
午後六時には会社を出ると森山さんから電話があったときには驚いた。
六時半頃森山さんが帰宅し、私は出迎える。

「おかえりなさい!」

せめて元気よく言うと、彼はまた笑った。

「ただいま。良い子にしてたか?」
「あの、私25才です」
「そうか、俺よりは年下だ」

む、と口をへの字にしてることだって子供だろうけれど、どうしても森山さんの前では甘えてしまうし、それを受け止めてくれるから困ってしまう。

帰宅して早々に夕飯を作るという彼に自分が今度こそ作ろうとしたのだが、パスタでソースと和えるだけだからと言って断られた。
きっと市販のソースと混ぜるんだと思った自分を恥じたい。
作られたのはカルボナーラだったけれど、どうみても高級そうな厚切りベーコンが登場し手早く作られるソースを見ながら、私が出しゃばらなくて良かったと思った。
私の場合は彼の城である厨房に入るのは、迷惑をかけるだけになりそうだ。
せめてと食器洗いくらいと思っても、食器洗浄機で洗うので私は片付けのみ。
それでも彼は十分だと甘やかすので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「今後のことだが」

食事を終えてソファーにお互い座っている。
目の前のガラステーブルには、高そうなワインとチーズに枝付きのドライレーズン。
どれも美味しくて勢いよく飲みそうになったのを、森山さんに止められた。

「まずはここに引っ越しをする、それは決定でいいか?」
「はい、お世話になります」
「なら週末家を引き払おう。業者の手配はこちらで見繕う」
「お手数おかけします」
「それでここからが本題だ」

彼はソファーから離れると何かを持ってきてテーブルに広げる。
のぞき込めばどこかで見たような役所の書式。
左上に書かれた文字を見て驚き森山さんを見た。

< 92 / 158 >

この作品をシェア

pagetop