初恋の糸は誰に繋がっていますか?
そのまま婚姻届に二人で記入し、まずは森山さんが私の両親に電話で結婚したい旨を伝えた。
何故か私はリビングで待機、森山さんは防音の書斎で電話しているので内容はわからない。
しばらくして電話を私に渡されると、両親は大喜びだった。
森山さんが何を話したのかわからないが、近々挨拶に行くと言うことで両親と決めたらしい。
それから車で連れて行かれたのはまさかの森山さんの実家だった。
パニクっている私をよそ目にご両親に証人として記入してもらうと、また来るとだけ言って手を引っ張られて家を出る。
必死に頭を下げて礼を言ったけれど、森山さんのお父様とお母様はニコニコとしていて、私には何故突然息子が見知らぬ女を連れてきて何も聞かずに証人となってくれたのか理解出来ない。
短時間の滞在中は頭が真っ白で、そういえば承認欄の苗字は森山ではなく高木だったことを今更気がついた。
見間違いだったのか確認したいけれど、婚姻届は後部座席にある達貴さんの鞄の中。
あまり立ち入るのも失礼かも知れない。
そして役所の夜間受付に婚姻届を提出した。
「不備は無いはずだからこれで君は僕の妻だ。
苗字が変わって迷惑をかけるが、出来るだけのことは手伝う」
「ありがとうございます。
苗字はむしろ変わった方が結婚が嘘じゃ無いとわかるので」
「俺はどちらでも良かったんだが」
「そういう訳にはいきません。
私が尻に敷いているなんて誤解を生んだら森山さんに迷惑をかけます」
「ではそういうことにしよう。
ところで」
彼は車に乗り込んで私に向き合う。
「俺も君も森山になったんだが、君はまだ俺を森山と呼び続けるのか?」
車の中は暗い。
だけれど地下駐車場の灯りで森山さんの表情はわかる。
面白がっているのは手に取るようにわかった。
「では達貴さん、でいいでしょうか」
「しゃべり方も家族にしては堅いんじゃ無いか?理世」
あぁ!不意に名前を呼ぶのは反則だと思う!
頬に両手を当てれば、やっぱり熱い。
「達貴さんの意地悪」
「理世が可愛いのが悪い」
どうやら私の旦那様は、思ったよりも意地悪なのかも知れないと初めて理解した。