初恋の糸は誰に繋がっていますか?

第七章 裏切り者は誰か


会社は旧姓を通称として使用できるが、手続き上は戸籍での名前となる。
当然私の苗字は一部の部署にはわかってしまう。
とある苗字の人と住所が同じ場所となれば答えは自ずと出るもので。

週末引っ越しを済ませ、週明けに手続きをしたら想像よりも一気に社内に広まった。
あの森山常務が総務の平社員と結婚したと。

うちのフロアでは無い社員達まで覗きに来られ、そのたびに皆の顔はなんでこの女が?と一様に書いてあるのがわかる。
私だって今も実感がわいていない。

奈津実には事前にメッセージアプリで簡単に報告をして置いたが、もちろんすぐさま電話がかかってきてかいつまんで事情を話した。
最初ははしゃいでいた奈津実も、私の身に起きたことを聞いてかなり心配させてしまった。
いつでも話してよ言ってくれて、私は心からお礼を伝えた。

達貴さんが会社で見せるは隙の無い出来る男。
それが家に帰って私と過ごしていると、同じ人なのかと思うほどに穏やかで、笑う顔はとても子供っぽくも思える。
私の頭を撫でると落ち着くのだと彼は言う。
やはり拾ってきた猫を責任持って世話をしているだけなのではないのだろうか。
子供扱いもされるし意地悪なことも時々言うけれど、それも嫌じゃ無いのだから惚れた弱みというヤツかも知れない。

だが一緒に住んでまだ一週間経っていないが、結婚したのに寝室も別、キスすらも当然無い。
買い物で外に出たときに手を繋がれたが、恋人つなぎでは無く子供がはぐれるのを心配しているというような感じだった。

安心していい。

彼の口癖だ。
私を怖がらせないようにか、不必要なスキンシップはしない。
でも私の様子がおかしければすぐに見抜いて、彼の腕に抱きしめられてその中で安心してしまう。

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