初恋の糸は誰に繋がっていますか?

思わず頬が緩みそうになったのを戻し、久しぶりに午前中プロジェクトの会議があると思っていたら急遽中止になった。
事情は知らされず、中止になったとだけチャットツールに流れてきた。
進行具合でこういうこともあることだし気にとめていなかったが、翌日午後になって会社のプロジェクトメンバーだけ集められた。

「デザインがライバル企業に漏れたようだ」

森山常務からの衝撃的な言葉にみな言葉を失う。
既にデザインは完成しそれを踏まえた広告方法を詰めている最中で、こだわったデザインをまた一からとなればスケジュールに大幅の遅延が起きる。
情報が漏れたことも大問題だが、その上にスケジュールが狂うなど会社の信用低下は真逃れない。

「どこから漏れたのかわかったのですか」

メンバーの女性が緊張した顔で尋ねる。
それはそうだ、もしかしたらこの中に裏切り者がいる可能性があるのだから。

「先ほど、このメンバーのパソコンからは情報が漏れていないことは確認した」

常務の言葉に皆胸をなで下ろすが、一人が手を上げた。

「まだ会社全体の確認は出来ていないんですね。
それに必ずしもパソコンでやりとりしたとは限らない」

メンバーでも年齢の高い男性の言葉に、常務が頷いた。

「もちろんだ。
先に君たちを疑う行動をして申し訳ないが、もう時間が無い。
他の候補だったデザインも流れている可能性を考えると、他企業とすぐに新しいデザインの制作に移りたいと思う」
「それは、フィグスが流した可能性もあるから、ということでしょうか」
「そうだ」

私の質問に常務はきっぱりと答え、皆が息を呑んだのがわかった。

「勝手で悪いが私の知り合いのデザイナーにいくつか大雑把だが案を作ってもらった。
今日この場で一つに絞り急ぎ進める。
あれだけ皆でデザインを詰め、それを元に広告をうつために進めていたがここは一つ切り替えて欲しい。
皆には無理をさせてしまうが、このメンバーなら必ず成し遂げられる。
では始めようか」

常務の自信に満ちた声に、メンバーは顔を見合わせ頷いた。
常務自らデザイン案の印刷物を配り淡々と進めていけば、皆も今までに無い集中力で二時間予定の会議は四時間でなんとか次に着手できるまでにまとめられた。
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