初恋の糸は誰に繋がっていますか?
何度も常務を急かしに来ていた秘書を皆忘れていたほどだったが、会議を終えるとすぐさま常務は次の予定のために出て行き、残ったメンバーは飲み物を飲む人、肩を回す人、ようは何かここで話したくて残っていた。
「フィグスは完全に外されたという事で良いのだろうか」
「フィグスが流したって可能性はあるんだろうけれど、向こうに何のメリットがあるの?
うちの会社とやれるのはあの会社には箔がつくでしょうに」
「あの二人を妬んでフィグスの人間が流した可能性だってあるかもしれないぞ」
「それを言うならうちの社内でだって起きてたっておかしくないわよ。
データはクラウドに保存されるんだし、内部ならパスワードが盗み見られることだってあるかもしれないし」
皆口々に言うと今度は黙ってしまった。
私は何も言うことが出来なかった。
このメンバーに裏切り者がいるなんて思えない。
フィグスにはあの下村さんがいて、このプロジェクトに力を入れていた。
どうしても誰かが意図的に流したなんて事、考えたくも無い。
「あの」
勇気を出して一言発すれば皆の視線が私に集まり、臆しそうになったのを耐える。
「常務と身内になった私が言うのもなんなのですが、常務はこのメンバーをとても信頼しています。
私達を調べたのも好きでやったわけでは無く、このメンバーに向くであろう嫌疑を先に晴らしたかったんだと思うんです。
常務は自分の利益だけで動く人ではありません。
このメンバーでプロジェクトを成功させたい、それを強く願っていると思います。
私は皆さんのような能力があるわけじゃ無く、ただの一総務から来ただけの社員です。
ですが精一杯頑張りますので何卒よろしくお願いいたします!」