偽りの夫婦〜溺愛〜
片恋
『――――円華(まどか)が、妊娠したんだ…!』

親友・太知(たいち)の弾むような電話の声。

「そうか。
おめでとう」
心にも無いことを伝える。

通話を切り、乱暴にスマホを置く。
紅羽は天井を見上げ、大きなため息をついた。


円華は元々、紅羽の恋人だった。

太知に紹介したことが、全ての始まりだ。

あっという間だった――――――

本当にあっという間に円華は太知に惚れ、別れを告げられ、二人は結婚した。

「結婚の次は、妊娠かよ……」

紹介なんかしなきゃよかった。

「いや、紹介しなくてもどうせこうなる“運命”だったよな……」

紹介した時、太知と円華はまるで引き寄せられるように恋に落ちていたのだ。

ハタから見ていた紅羽でもわかるくらいに―――――


“運命”か……

「そんなの、あるわけない……」

今実家の自室にいる、紅羽。 

そこに、ノックの音が響いた。
「失礼します。
紅羽様、本日のパーティーのことですが…」
紅羽の父親の秘書が入ってきた。

「ん」

「お父様より、パーティーで相手を決めろとののことです。
本日のパーティーには、政財界の家族が大勢いらっしゃいますので」

「………」

「紅羽様」

「わかってる」

適当に決めよう。

円華がいないなら、誰でもいいから。

紅羽は、煙草を咥えた。
秘書がすかさず、火を付ける。

「紅羽様」

「ん?」

「“お気持ちはわかります”
しかし、このままでは前に進めません」
紅羽を見据えてくる。

「わかってるよ」

そう言って、煙を天井に吐いた。


時間になり、スーツに着替えて車に乗り込む。

窓から流れるオレンジ色の景色を、ただジッと見ていた。

「紅羽」
隣座っている父親が声をかけてくる。

「んー?」
外を見ながら答える。

「吉瀬川の令嬢も来られるそうだ。
大学を卒業したからな」

「うん」

「………」

「………」

「…………俺の言いたいこと、わかるよな?」

「…………あぁ…」

わかるよ。

要は“結婚しろ”ってことだろ?

「今どき、政略結婚とかひく…」

「だろうな。
でも、それが“運命”だ」

「やめろよ……!!」
そこで、バッと父親に向き直った。

「は?」

「“運命”って言葉を、そんな風に口に出すなよ」

「フッ…
お前は“運命”を信じてるのか?
可愛いなぁ(笑)」

「うるさい…!」

紅羽は、また窓に目を向けた。
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