偽りの夫婦〜溺愛〜
「――――双葉は、好きなの?」

カヨとイタ飯店に来ている、双葉。
パスタをフォークに巻きつけながら、カヨが言う。

「え?誰のこと?」

「旦那」

「好きだよ。
じゃないと、いくらなんでも共同生活しない」

「いやいや、そうじゃなくて!」

「………あ、そっちの…?
好きなの…かも?
でも、込山への想いとは違う気がする」

「違うって、どうゆう? 
例えば、旦那と込山さんに同時に告白されたら…
どっちと付き合う?」

「え?」

「旦那に他に好きな人がいなくて、込山さんにも奥さんがいないとしたら」

「………」

「どっち?」

「込山がいい」

「なるほどね。
まぁ…そんな簡単に、気持ち気づかないか……」
カヨが意味深に呟く。

「え?」

「ん?
ううん!
なーんでもない!」

「そもそも、紅羽さんが私を好きになるわけないよ」

「どうして?」

「確かに私との生活を楽しんでくれてるし、ある意味好きでいてくれてると思う。
でも、やっぱり円華さんのことが好きなんだと思う。
私が簡単に込山を吹っ切れないのと同じだよ、きっと!」

「そっか…まぁ、そうだね」

「でも……」

「ん?」

「紅羽さんのことを好きになれたら良いのになって思う」

「………そうね」

「そしたら、もっと楽しいんじゃないかなって!」

「そうね。
まぁ…でも……」

「ん?」

「“本気にならないこと!”」

「え?」

「お互いに愛し合えるなら、それはとっても良いことだけど……
双葉だけが旦那に“本気になったら”きっと辛いと思う。
今は“好意がある”程度だから、楽しく暮らせて幸せだろうけど。
でも、愛してしまったら違う。
彼の言動一つ一つに一喜一憂して、彼の優しさが残酷になる」

「………」

「……って、わかんないけどー(笑)
まぁ、楽しみなっ!」


会計をして、紅羽に電話をかける。
ワンコール鳴るか鳴らないかで、紅羽が出た。

『もしもし!?双葉!?』
「あ、紅羽さん!」

『終わった!?』
「はい、今から帰りますね!」

『何処にいるの?迎えに行く!』
「え!?そんな、悪いですよ!
タクシーで帰りますから!」

『タクシー呼んだの?』
「いえ、今から電話しようかと」

『だったら迎えに行く!
何処?』
「○○駅横の路地を入った所にある、△△ってイタ飯屋さんです」

『あー、そこ知ってるよ。わかった!
そこなら、20分くらいで着くかな?
そこから動かないで、待っててね!
もし危なそうなら、中で待たせてもらいな?』

そう言われ、通話を切った。
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