偽りの夫婦〜溺愛〜
カヨが“旦那と話がしたい”と言い、二人で待っていると……
紅羽の車がゆっくり走ってきて、止まった。

運転席のドアが開いて、紅羽がスマートに出てきた。
「遅くなってごめんね!」
微笑み、双葉の方に近づく。

「いえ!こちらこそ、わざわざすみません!」
ペコペコ頭を下げる双葉。

紅羽は首を横に振りながら、嬉しそうに微笑んだ。
双葉も、つられるように微笑む。

「………」
そんな二人を意味深に見て、カヨが紅羽に声をかけた。

「すみません。
旦那さん、少し良いですか?」

「はい。
えーと…カヨ…さん。ですよね?」

「はい。
双葉とは、中学の時からの親友です!
双葉から、二人の関係について詳しく聞いてます。
その上で、お伝えしておきたくて」

「はい」

「双葉は、ピュアって言ったら聞こえは良いけど、私からすれば幼い妹みたいな子です。
世間知らずのお嬢様で、恋愛もまともにしてないウブな女性。
でも、私の大切な親友なんです!
だからくれぐれも双葉のこと、よろしくお願いします…!」

「はい、もちろんです!
政略結婚ですが、僕にとって双葉は大切なパートナーです…!
僕なりのやり方で、双葉を幸せにしたいと思ってます!」

「カヨ、ありがとう!」

そしてカヨを自宅に送り、紅羽と双葉も自宅マンションに帰った。


「――――あれ?洗い物までしてくれたんですか?」
キッチンの流し台を見て言う、双葉。

「うん、当たり前でしょ?
今日も美味しかったよ、ありがとう!」
紅羽は微笑み、頭をポンポンと撫でた。

「はい。
…………あの、紅羽さん」

「ん?」

「紅羽さんも、自由にしてくださいね?
同僚の方と飲み会とか、太知さんや他のご友人と遊んだりとか…
私のことはお気になさらず!」

双葉が今日無理矢理カヨと会ったのは、カヨと話がしたかったのもあるが、大半の理由は“紅羽にも自由に過ごしてほしかった”からだ。

自分がカヨと出かければ、紅羽も太知達と出かけやすいのでは?と思ったから。

「自由にしてるよ?」

「でも紅羽さん、全然一人の時間がない」

「いらないよ。
双葉と結婚するまで、ずっと一人だったから。
今更いらない。
今は、双葉と過ごしたい!」

「でも同僚の方とか、太知さんとかと……」

「双葉は、嫌?僕と過ごすの」

「へ?
そ、そんなことないですよ!
私は、ただ―――――」


「今日、寂しかった……」

紅羽の顔が、切なく歪んでいた。
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