偽りの夫婦〜溺愛〜
夢の中で、自宅のチャイムが聞こえている―――――  

「んん…」

紅羽は、ゆっくり目を覚ました。
そこにまた、ピンポーン!とチャイムが鳴る。
更に、玄関ドアがドンドン叩かれている。

「は?こんな遅くに誰だ!?」

寝室を出て、玄関に向かう。
「誰……は?込山!?
――――――どうした!?」

「紅羽様!?
お嬢様はご無事ですか!?」

「は?双葉?」

「すみません!失礼します!!」
無理矢理、込山が中に入っていく。

「ちょっ…込山!!」 

リビングのドアを開けた込山。
「お嬢様!お嬢様!返事をしてくだ――――お嬢様!!?」

「え……双葉!!?」

双葉が、リビングの床に倒れていた。
紅羽達は慌てて駆け寄る。

双葉の身体は、びっくりする程に熱くなっていた。
「双葉!双葉!」 

「お嬢様!?」
込山が双葉を抱き上げた。

「紅羽様、とりあえずベッドに寝かせましょう」

紅羽が寝室のドアを開ける。
込山が双葉をベッドに寝かせた。
双葉の額や頬に触れ、ゆっくり頭を撫でた。

「紅羽様、掛け布団はどちらに?」
「クローゼットにある。
僕が持ってくるよ」

紅羽が持ってきた掛け布団を、双葉にかけた。

「込山」
「はい」

「あとはいいよ。
僕がするから。
双葉は“僕の妻”だから…!」

“僕の妻”を強調させるように言う。

「…………
いえ、紅羽様はお休みになられてください」
そんな紅羽に、込山は意味深に言った。

「は?
こんな双葉を置いて寝れるわけないだろ?」

「しかし貴方がちゃんとお休みにならないと、お嬢様が気を遣われます」

「は?」

「お嬢様、何て言って電話をかけてきたと思います?」

「え?」

「“朝までに動けるようにならないといけない”」

「え……」

「そして“紅羽さんに、嫌われたくない”と」

「双葉が…?
でも…!
双葉は、君を――――――」

紅羽はそこまで言って、口をつぐんだ。

(双葉が必死に隠そうとしている想いを、僕が話すわけにはいかない)と……

「…………私はただの、お嬢様の“執事”です。
それ以上でもそれ以下でもない」

「………込山…」

(もしかして、込山は双葉の想いを……?)

「私はお嬢様が物心ついた時から、ずっとお傍にいた。
中学校、高校、大学…青春時代、ずっと女子校だったお嬢様の周りに、男性は極端に少なかった。  
だから、お嬢様は勘違いされているんです……」

「………」


「私のことを、男として好きだと。
でも本当は―――――」

「え?」


「いえ…
これは、お嬢様がご自分で伝えるべきことですね…」

込山は、意味深に微笑んでいた。
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