偽りの夫婦〜溺愛〜
それから、込山には帰ってもらった紅羽。

こんな苦しんでいる双葉の隣で寝れるわけないし、傍に寄り添ってあげたかった。

そして何より………

込山が双葉の傍にいることに、言葉に出来ない苛立ちを覚えたからだ。


「双葉、どうして…込山に連絡したの?
僕を起こしてよ……」
(………って、僕は何を言っているのだろう)

紅羽は思う―――――

双葉が込山を頼るのは、当たり前だ。
だって、込山は双葉の想い人なのだから。

込山は“あんなふうに”言っていたけど、双葉の気持ちはわからない。

いつからだろう。
込山に嫉妬するようになったのは…… 
いつからだろう。
円華のことを全く意識しなくなったのは……

今日、双葉の口から出た「ありがとう、込山」の言葉。

「あの言葉は、本当に傷ついたなぁ…」

だから僕は、ある意味自分に言い聞かせるように言ったのだ。

「双葉は、込山が大好きなんだから!」と。

そして苛立ちを認めたくなくて「込山に会いたい?それなら、込山呼ぼうか?」と、双葉にぶつけるように言ったのだ。

もう、とっくに僕は気づいている―――――

「…………双葉。
僕は、君のことが………」

「んん…」
そこに、双葉がゆっくり目を開けた。

「双葉!?」

「あ…紅羽…さ……」

「大丈夫!?
気分は!?」  

「………私…なん…で?」

「リビングで倒れてたんだよ?」

「あ…そ…か…
ごめんなさい…ご迷惑かけて…」

「迷惑なんかじゃないよ?
でもね。
すっごく、心配した!
こうゆう時は、僕を起こして?」

「でも……」

「でも?」

「体調崩すなんて、主婦失格ですよね?」

「は?どうして?
誰がそんなこと言ったの?」

「ネットで見ました。
私、紅羽さんに嫌われたくない。
紅羽さんの自慢の奥さんでいたいんです。
少しでも、円華さんの代わりで居られるように……!」

「え……
円華?」

「紅羽さんが、将来私を愛することがないのはわかってます。
でも傍にいられるなら、せめて嫌われないようにしたい。
自慢の奥さんでいたいです!」

「いや違う!!」

「え?」

「…………ううん…
とにかく、寝てて?
ずっと傍にいるからね……!」

「私は大丈夫です。
紅羽さんこそ、お休みになってください」

「………」

「紅羽さん?」

「僕、頼りないかな?」

「え……」

紅羽の表情が、切なく揺れていた。
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