偽りの夫婦〜溺愛〜

まさか“男性と”食事に行くとは夢にも思っていない、紅羽。
カヨと行った時のように、女性と食事に行くと思っている。

「…………そっか！
わかった！」
（今週末か…また、一人か……寂しい…）
紅羽は微笑み頷きながらも、心の中では切なく思っていた。

「………」
対する双葉。
目を見開き、傷ついていた。


アキヒコとの会話。
『もし“良いよ”って言われたら……』

『そうだなぁ〜、まぁでも人って色々いるから。
愛情があっても、お互いに干渉し合わないって夫婦もいるし！』

『アキヒコさんは？』

『ん？』

『アキヒコさんだったら、良いよって言う？』

『嫌だ(笑)
男と二人で食事って…
いくら相手が友達でも、勘ぐってしまう(笑)
俺なら、絶対行かせない！』


“紅羽さんは、やっぱり…私のこと……”


「え……双葉！？
どうした！？」

双葉は泣いていた。

紅羽には円華という想い人がいること。
紅羽は、双葉が込山に想いを寄せていると思っていること。

それはわかっている。

でもどこかで、それでも紅羽が自分を想ってくれていると思っていた双葉。

現実を突きつけられたように、傷つきショックを受けていた。

「双葉？
どうしたの？言って？」

「いえ…大丈夫です…」

今更、言えない。

“貴方を本気で好きになりました”
なんて…………

紅羽が涙を優しく拭ってくれる。
その優しさが、とても辛い。

カヨの言葉を思い出した。

“彼の言動一つ一つに一喜一憂して、彼の優しさが残酷になる”


そうだね、カヨ。
人を好きになるって、こんなに苦しいんだね…
込山の時は、ここまでなかった。

あぁ、そうか…

私は、紅羽さんを本気で愛してしまったんだね……


紅羽が何度聞いても、双葉は「大丈夫です」と言い、本心を話さなかった。

寝室で――――隣のベッドに眠る双葉を、ベッド脇に腰掛け見つめる。

手の甲で前髪を払った。

双葉の目元から、涙が落ちた。
「また、泣いてる…
どうして泣いてるの？
どうして言ってくれないの？
どうして……？」

込山になら、何でも打ち明けるんだろうな。
だって双葉は、込山のことが大好きなんだから…

苦しい―――――

円華の時は、ここまでなかったんだけどな…

あぁ、そうか…

僕は、双葉を本気で愛してしまったんだ……