偽りの夫婦〜溺愛〜
一方の双葉。
自宅マンションに帰ってから、双葉は落ち込んだように玄関に座り込んでいた。

紅羽が帰ってきたら、すぐにでも伝えられるように…

そこに紅羽から、メッセージが入る。

【お疲れ様!
今日、同僚に食事に誘われたんだ。
だから少し遅くなるよ。
ごめんね】

「え……
お食事…」

初めてだ。
紅羽が、食事をして帰ってくるのは。

今までは誘いは一切断り、仕事終わってからすぐに自宅に帰っていた紅羽。

紅羽からのメッセージに、双葉は嫌なことばかり考えてしまう。

(紅羽さん、私のこと嫌になっちゃったのかな……?)

あっという間に目が潤み、涙が溢れていた。



「―――――薬師寺くん、奥さんとなんかあったの?」

「え?」
居酒屋で、同僚に聞かれた紅羽。
「別に…」

「でも、なんかあった顔してる(笑)」

「たいしたことないよ」

「ふーん…
でも、全く仕事進んでなかったけどね(笑)」
「仕事が手につかないって、たいしたことじゃん!(笑)」

「………」


「………ん?あれ?」
そんな紅羽の姿を遠くで、カヨが見かけていた。
「どうしたー?」
アキヒコと飲みに来たのだ。

「あそこにいるの、双葉の旦那よ。
まだ、帰ってないんだ…」
「へぇー!
あれが、薬師寺財閥の御曹司かぁー(笑)」

「双葉、大丈夫かな?
今、家に一人よね…」

「………」

「ん?アキ?どうしたの?」

「…………
それにしても、楽しみ〜!!」
少し考え込むようにしていたアキヒコが突然、声を張り上げた。

「え?アキ?」

「“双葉ちゃんとの”食事!」
アキヒコが、目で合図をする。
 
その声は、紅羽の耳に入っていた。
「え……?」

「…………
くれぐれも!!よろしくね、アキヒコ!
だいたい、双葉もなんでなの!?
旦那がいるのに“男と二人で”食事なんて!!」

「は?何が悪いの?」

「は?」

「だって双葉ちゃんと旦那は、あくまでも政略結婚だよな?
だったら、良くね?
双葉ちゃんが“誰と”“どこで”“何をしようと”旦那には関係ない」

「そうかもだけど…」

「まぁ…“俺は”嫌だけどね?(笑)
あんな可愛くて、ピュアで一生懸命な嫁さん、いくら政略結婚だとしても…
安易に他の男と二人で食事なんかさせたくない!」


紅羽は、万札をバン!とテーブルに置くと「急用を思い出した」と言って、居酒屋を出ていった。
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