偽りの夫婦〜溺愛〜
込山(こしやま)!」

双葉の表情が、明らかに華やいだ。

「―――――!!!!?」
その姿に、紅羽が目を見開く。

「私が持ってまいります。
こちらで、お待ちになられてください」
双葉の肩にショールをかけながら、微笑み声をかけてきた。

「えぇ!
あ、薬師寺さん。
ご紹介が遅れました。
私の執事をしてます、込山です!」

「薬師寺様。
込山と申します。
薬師寺様も、紅茶でよろしいでしょうか?」

「あ、あぁ」

「では、持ってまいります。
少々お待ちを……」

丁寧に頭を下げ、会場に向かう込山。

それを双葉は、切なそうに見つめていた。

確か込山って、既婚者なはず。
……………好きなんだ、彼のことが……!
紅羽は、そんな事を考えていた。

彼女も“辛く、叶わない恋をしている”

そう思った、紅羽。
思いついたように、双葉に声をかけた。

「双葉さん」

「え!?」
突然名前で呼ばれ、びっくりして振り向く。

「すみません、突然。
…………僕の話を聞いてもらえませんか?」


二人は、庭園内にあるベンチに座った。

「双葉さん、僕には好きな女性がいます」

「え?そうなんですか?」

「双葉さんにも……いますよね?」

「え?あ…あの!このことは、両親には言わないでください!!」

「大丈夫ですよ!
大丈夫。それに…その方が僕には好都合なので……!」

「え?」

「僕は父親に、君と結婚しろと言われています。
双葉さんもですよね?」

「………はい…」

「僕達はお互いに、叶わない恋をしている。
でもこれから先ずっと…見合いさせられて、また政略結婚を持ちかけられる。
…………僕達が“薬師寺”と“吉瀬川”でいる限り。
だったら、双葉さんと政略結婚して、好きな人を想って生きていく方がいい。
結婚しても、僕は君に好きな人がいても構わないし、自由にしてくれて構わない。
重要な時だけ、夫婦になればいい。
だから、僕と……
政略結婚、しませんか……?」


紅羽が双葉を見据え、微笑んだ。
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