偽りの夫婦〜溺愛〜
「…………はぁ…ちょっと、言い過ぎたかな?
どうしよう…仮にも紅羽さんの元彼女さんなのに…」

一方の双葉は、少し落ち込んだようにトイレから出ようとしていた。

「双葉」

紅羽がトイレ前で待っていた。

「あ…」

「帰ろ?」

「え?あ、はい。
でも、あの…ちょっと円華さんに、謝罪を……」

「円華に聞いたよ。
でも、双葉が謝る必要ないよ。
むしろ、円華が謝るべきだよ?
だから良いんだ。
ねぇ、早く帰ろ?
帰って、ギュッてさせてよ」

「紅羽さん…」

双葉の手を掴み、店を出た。
そして、無言で双葉の手を繋いだまま歩く紅羽。
心無しか、歩くスピードが早い。

自宅マンションに着き、ソファに並んで座った。

「あ、あの…紅羽さ…」

「ん?」

「怒ってますか…?」

「え?」

「なんか、こ、怖くて…」

「あ…ごめんね。
えーと…双葉に怒ってるんじゃなくて…
いや、怒ってるってゆうか…
…………………
なんか、ごめんね…」

紅羽の表情が、切なく揺れた。
なにか、戸惑っているようだった。

こんな表情は、初めて見る。 

(傷ついてる…?)

双葉は、紅羽の頭をゆっくり撫でた。

「え?」
紅羽が目を見開く。

「え?あ、す、すみません!!」
何故かわからない。
でも、無性に紅羽の頭を撫でたいと思ったのだ。

“愛しい”と思えたのだ――――――

「フフ…ありがとう!
双葉の頭ナデナデ、気持ちいい…!」
ふわりと笑う紅羽。

「あの…」

「ん?」

「抱き締めていいですか?」

「え?」

「今、私が、紅羽さんを抱き締めたいんです」

「うん、いいよ」

双葉が紅羽を抱き締めた。
胸辺りに顔を埋めた紅羽の頭を、ゆっくりと撫でる。

「気持ちいい…」
紅羽が言うと、双葉も微笑んだ。

顔を上げた紅羽が、双葉を見上げ「キスして?」と言う。

双葉は、ゆっくり顔を近づけ紅羽の口唇にキスを落とした。

フフ…と笑った紅羽が「僕からもしていい?」と言って、キスをした。
そして「双葉、口開けて?」と言った。

口を開けた双葉に食いついくように重ねる。

「んんっ…!
んはぁ…//////
紅羽さ…待っ……!/////」
苦しくなって口唇を離そうと押し返す双葉の手を掴み、更に貪った紅羽。

口唇を離した時には、息が上がっていた。

「……はぁ…ごめんね…」

「……/////」
首を横に振る、双葉。

「双葉…//////」
愛おしそうに名を呼び、双葉の口唇をなぞる紅羽。

「あ…//////」
さすがの双葉にも、わかった。
紅羽が、興奮していることに。

この先を想像して、思わず構えた双葉。


「…………僕、頭冷やしてくる…」

しかし紅羽は、双葉の頭を撫でてリビングを出ていった。
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