偽りの夫婦〜溺愛〜
薬師寺家と吉瀬川家の食事会が、あるホテルのレストランで行われている。

紅羽と双葉の両親が、微笑みながら食事や酒を楽しんでいる。

双葉はその光景を、切なく見つめていた。

(勢いで受け入れたけど…
本当に良かったのかな?)

「お嬢様?」

「え?」

「どうされました?」
込山が声をかけてくる。

「ううん…
私、お手洗い…」

トイレに行き、洗面台の鏡で自分の顔を見ながらため息をついた。

そしてトイレを出ると……

「大丈夫ですか?」
紅羽が立っていた。

「あ、はい…」

「ん?双葉さん?」

「これで良かったんでしょうか?」

「僕は良かったと思ってますよ」

「紅羽さんは本当に、好きでもない私と共同生活出来るんですか?」

「出来ます。
双葉さんなら、良いですよ」

「どうして…?」

「僕は、双葉さんの気持ちがよくわかる」

「え?」

「近くにいるのに、触れられない。
想いを伝えれば、今の良好な関係が壊れてしまう。
…………それが怖い。
出来ることなら、放っておいてほしい。
例え片想いでも、ずっと想い続けていきたい」

「紅羽さん…」

「あまり深く考えないでください!
気楽に共同生活しましょう!」


それからは、トントン拍子に進んでいく。

そして――――結婚式。
控室にノックの音が響く。

「はい」

込山が入ってきた。
「お嬢様、お呼びですか?」

双葉がゆっくり立ち上がる。
そして、振り返った。 

「どうかな?//////」

ウェディングドレス姿の双葉。
照れたように、込山に微笑んだ。

「よくお似合いです!」

「綺麗?」

「はい、お綺麗です!」

「フフ…」

「ご結婚、おめでとうございます……!」

「うん。
…………あの…ね…?」

「はい」

「込山は、寂しい?」

「え?」

「私が屋敷からいなくなるから」

「そうですね。
お父様もお母様も、寂しくなると言ってますよ…!」

(そうじゃない!)

「………」

「お嬢様?」

「………」

「幸せになってくださいね……!」

「―――――!!!?」

(違う!!)
「私は……!!!」

「お嬢様?」

そこにノックの音がして、紅羽が入ってきた。
込山が丁寧に頭を下げ、部屋が出ていく。

「双葉さん、もうそろそろお時間みたいですよ!
行きましょう?
……………ん?双葉さん?」

「あ…はい」 
双葉は込山を切なく見送り、紅羽に向き直った。

「ん?どうしました?」

「いえ…」

「双葉さん、これを…」
紅羽が、胸ポケットからハンカチを取り出した。

「あ…すみません…」

「まだ泣くには早いですよ?(笑)
それに、せっかくのメイクが崩れてしまう。
……ってメイクが崩れても、綺麗ですけどね!」

「あ…//////」

「あ!クサかったですかね?(笑)
今の言葉」

「いえ(笑)
紅羽さんみたいな素敵な方に、綺麗って言われると嬉しいです!」

二人は微笑みながら、控室を出て会場に向かった。
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