偽りの夫婦〜溺愛〜
控室に行くと、双葉がプランナーに背中をさすってもらいながら気持ちを落ち着かせていた。

「あ、紅羽さん」
気づいたプランナーが、軽く頭を下げる。

「双葉さんと二人にしてもらってもいいですか?」  

「はい、かしこまりました。
私はドアの外で待ってます。
また、声をかけてください」

丁寧に頭を下げ、出ていった。

「隣、座っていいですか?」
優しく声をかけると、双葉が頷いた。

隣に腰掛け「背中、さすっていいですか?」と聞くと、ゆっくり頷いた。  

ゆっくりさする紅羽に、双葉がポツリと呟いた。
「ごめんなさい…」

「どうして、君が謝るんですか?」

「雰囲気、悪くしましたよね?
せっかくの結婚式なのに…」

「謝るのは僕の方です。
僕のせいですよね?」

ゆっくり首を横に振る、双葉。
「…………辛いですよね…
好きな人に、あんなふうに言われるの…」

「大丈夫ですよ!」

「強がらないでください!」
バッと紅羽を見て、訴えるように言う。

「双葉…さ…」

「私だったら、苦しい!
誰だって、本当に好きな人と一緒になりたいはずです!」

双葉の真っ直ぐな思いと言葉に、紅羽が微笑んだ。

「…………やっぱり、君で良かった…!」
そう言って、双葉の目元をなぞるように指で涙を拭った。

「え?」

「愛情は持てなくても、君となら幸せに暮らせそう!
君のためなら、尽くしてもいいって思えるんだ……!」

「紅羽さん…」

「今、こんな事言うの変だけど…
“幸せになろうね…!双葉”」


式後。
紅羽と双葉は、役所に婚姻届を出しに行った。
「おめでとうございます!」
職員が言ってきて、二人は微笑み軽く頭を下げた。

「―――――“おめでとうございます”って言葉…」
役所を出て、双葉がポツリと言う。

「ん?」

「なんか、変な感じです…(笑)」

「まぁ、そうだね。
おめでたいことではあるけど、僕達にとっては複雑だよね(笑)」
フフ…と笑う紅羽を、双葉が見上げた。

「…………あ、あの!」

「ん?」

「私も、共同生活楽しもうと思います!」

「うん!」

「これから、よろしくお願いします!」


ペコリと頭を下げる双葉に、紅羽は「こちらこそ!」と言い頭をポンポンと撫でた。
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