偽りの夫婦〜溺愛〜
「………」

その頃の紅羽。
会社のデスクで仕事をしながら、双葉からのメッセージを確認していた。

思わず固まる、紅羽。

「薬師寺くん、例の話―――――ん?どうした?」

「え?あ…いえ!
あー、これですね!」

「うん。
少し早めに書類を作成したいから、今から話し合いいいかな?」

「はい」

【わかった!楽しんで来てね!
帰りは迎えに行くから、連絡してね(⁠•⁠‿⁠•⁠)】

双葉に返信し、会議室に向かった。


「――――奥さんと喧嘩したの?」

話し合いが終わり、戻る途中。
上司に聞かれた紅羽。

「まさか!」
(そんなの、あり得ない!
僕達は、とても良い関係を続けてるんだから!)

「それにしては、元気がないよ?」

「そうですか?」

確かにそうだ。
夕食別々だと言われただけで、ショックを受けている。

“楽しんで来て”なんて、本当は思ってない。

紅羽は、双葉との生活をとても楽しんでいた。
双葉との関係はプラトニック・ラブだと思っていて、共同生活を送るパートナーとして好きになっていた。

だから紅羽は、双葉を最優先にしている。
双葉といると、穏やかで心地良いのだ。


そして―――――仕事が終わり、自宅マンションに帰る。

「ただいま」
双葉はいないことはわかっているが、とりあえず言ってみる。

シン…と静まり返っていて、なんだか暗い。

いつもなら……

『おかえりなさい、紅羽さん!
今日も、お仕事お疲れ様です!』
そう言って、出迎えてくれるのだ。

リビングに入ると、ダイニングテーブルに手紙が置かれていた。

“紅羽さん、今日もお仕事お疲れ様です!
冷蔵庫に夕食が入ってます。
温めて食べてくださいね!
ちなみに今日の夕食は、紅羽さんが大絶賛してくれたチキン南蛮とサラダ、味噌汁です!
(人参は一切入れてないので、ご安心を!)
また、終わったら連絡しますね!
ふたば”

双葉の書いた文字を、指でなぞる。

手紙一つで、こんなにも心が穏やかになる。


「いただきます。
――――――ん、旨っ!!」
一人の夕食。
無理矢理、声を張り上げてみる。

「………」

寂しい……

こんなに寂しい食事は初めてだ。

双葉との結婚前は一人が普通だったし、寂しいだなんて思ったことなかった。

「早く、双葉に会いたいな…」

紅羽は思わず、ポツリと呟いていた。
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