「君を愛することはない」ってラブラブハッピーエンドへの常套句じゃなかったんですか!?
 きゅるんとした真っ黒の瞳が、どこかコルンの黒髪を連想させて一瞬気が緩んでいた私は、自身の口にした言葉に全身から血の気が引いた。

“母グマ?”

 地面に下ろしたクロスボウへと慌てて手を伸ばし、子グマから離れるように後ろへ下がる。

“こんな場所に子グマだけでいるはずがないわ!”

 ならば近くに母グマがいるはず。
 そして森の王者であるクマの縄張りに入ってしまったのなら、他の動物がいなくても不思議ではない。

「私上級エリアに入っちゃってたの……!?」

 すぐに元のエリアへと戻らなければ。
 気持ちだけが焦り心臓が痛いくらいに跳ね上がる。

 走ってここを離れたい衝動に駆られながら、私がエリアの脱出を試みたその時だった。

「ッ!」

 のし、という確かな重量感のある足音と感じたことのない威圧感。
 ゾッとする私の目の前には、私よりもずっと大きいクマがいた。

 刺激してはダメだと頭ではちゃんとわかっていたのに、この咄嗟の状況に思わずクロスボウの引き金を引いてしまう。
 だが狙いを定めていないその矢は、全然違う方向へと飛び木へと刺さった。

“しまった!”
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