君は僕のもの〜ヤンデレ短編集〜
『不倫をする社員がいるなんて、社のイメージに関わってくる』

そう言われ、私は仕事を退職させられてしまった。おまけにこのことが両親にも伝わっていて、不倫を許せない二人は「もう二度と帰ってくるな」と絶縁宣言をされてしまった。行く宛てのない私に手を差し伸べてくれたのが一くんだ。

私より五歳年上の彼は、私の近所に住んでいる幼なじみだった。大手企業に勤めている。こんな落ちぶれた私を一くんだけが信じてくれた。

『香凜がそんなことをする人間じゃないって俺が一番よくわかってる。俺と一緒に暮らそう。俺は香凜の味方だ。一人にしない』

その言葉は何よりも逞しくて、私の絶望に満たされた心は救われた。今は一くんの家で専業主婦のような生活をしている。結婚どころか付き合ってすらいないんだけど。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

一くんを見送った後、私は洗い物を済ませて掃除に取り掛かる。私にできることは家事しかない。一くんが快適に過ごせる環境を作るのが私の仕事だ。
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