君は僕のもの〜ヤンデレ短編集〜
難しいことじゃないでしょ
時計の秒針の音がやけに大きく感じる。午後六時。もうすぐあの人が帰って来る。室温は下がっていないというのに、体がブルリと震えていった。

「珊瑚(さんご)、ただいま」

リビングのドアが開いてスーツ姿の男性が姿を見せる。家族のように親しげに話しかけてくるものの、私は「おかえり」と言うことはできず、ただ俯いた。

「……これ、書いてくれてないんだね」

男性がテーブルを指でトントンと叩く。テーブルの上には一枚の紙があった。私の好きなキャラクターが描かれた可愛らしい紙だ。でもそれにサインすることはできない。だってそれはーーー。

「これを買いてくれないと、俺はずっと珊瑚と家族になれないんだよ。いい加減書いてくれないかな?」

男性はため息を吐き、ソファに座る私に近付いてくる。私が逃げようとすると足元でジャラッと音が響いた。私の足はもう三ヶ月近く、鎖が巻き付けられて自由を奪っている。

「何が不満なの?ここには珊瑚の好きなものばかりあるはずなんだけどな」
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